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ДВЕНАДЦАТЬ РАЗБОЙНИКОВ
十二人の盗賊

残忍な盗賊が道徳心に目覚めて修道士に転身した物語。

作詞:Н.А.ネクラーソフ  /  作曲:不詳  /  1880年頃成立?

邦題
『十二人の盗賊』

MIDIと楽譜
(別窓で開きます)


◆原歌詞:1〜6番  バリアントバージョン
歌詞についての解説はガイドの項をご覧ください。
◆和訳と語句

1.
ゴースパドゥ ボーグゥ パモーリムスャ
"Господу Богу помолимся!

ドリェーヴニュユ ブィール ヴァズヴェスティーム
Древнюю быль возвестим",

ターク フ・サローフカフ ナーム ラスカズィヴァール
Так в Соловках нам рассказывал

イーナク チェスノーィ ピチリーム
Инок честной Питирим.

1.
『主なる神さまに祈りを捧げよう!
 ずっと昔にした事をお伝えしよう』
このようにソロフキーで我々に物語った、
たっとき修道僧ピチリームが。
Господу【単数与格】<Господь
 神様。とくにキリスト教の唯一神を指します。
быль【単数対格】<быль
 過去の出来事。
Соловках【固有名詞・複数前置格】
 <Соловки
 ソロヴェツキー(ソロフキー)諸島。ロシア北西部の白海にある諸島で、かつて聖地として栄えました。ガイドの項も参照してください。
инок 修道僧。
честной【形容詞・男性主格】
 神聖であるとして尊ばれる。

2.
ブィーラ ドヴェナーッツァチ ラズボーィニカフ
Было двенадцать разбойников,

ブィール クゥヂィヤール アタマーン
Был Кудеяр-атаман.

ムノーガ ラズボーィニチキ プローリリ
Много разбойнички пролили

クローヴィ チェースヌィフ フリスティアーン
Крови честных христиан.

2.
十二人の盗賊たちがいた
首領のクデヤールがいた
盗賊たちはしじゅう流した
誠実なキリスト教徒の血を
разбойников【複数生格】略奪者、強盗。ここでは、一般的な邦題に従い「盗賊」としました。
пролили【動詞・複数過去形】<пролить
 〜を流す。次行のкрови(血)と併せて、「人殺しをする」の意味合いになります。
христиан【複数形】キリスト教徒。

3.
ムノーガ バガーツトヴァ ナグラービリ
Много богатства награбили,

ジーリ ヴ・ドリェムーチム リェスゥー
Жили в дремучем лесу.

サーム クゥヂィヤール イスパッ キーィエヴァ
Сам Кудеяр из-под Киева

ヴィーヴィス ヂェーヴィツゥ クラスゥー
Вывез девицу-красу.

3.
たくさん宝物を略奪して
うっそうとした森に暮らしていた
クデヤール自身がキエフの近くから
美しい娘を連れてきた
награбили【動詞・複数過去形】
 <награбить 略奪する。
дремучем【形容詞・男性前置格】
 <дремучий うっそうとした、茂った。
из-под【前置詞】(町など)の付近から。
вывез【動詞・男性過去形】
 <вывезти 運んでくる、連れてくる。

4.
ドニョーム ス・パリュボーヴニツェィ チェーシルシャ
Днём с полюбовницей тешился,

ノーチユ ナビェーギ トヴァリール
Ночью набеги творил.

ヴドルーク ウ ラズボーィニカ リュータヴァ
Вдруг у разбойника лютого

ソーヴィェスチ ガスポード プラブゥディール
Совесть Господь пробудил.

4.
昼間は愛人と楽しみ
夜は襲撃をおこなった
突然、残酷な盗賊を
神様は良心に目覚めさせた
полюбовницей【単数造格】愛人、情人。
пробудил【動詞・男性過去】
 <пробудить 〜を目覚めさせる、引き起こす。

5.
ブロースィル スヴァイーフ オン タヴァーリシェィ
Бросил своих он товарищей,

ブロースィル ナビェーギ トヴァリーチ
Бросил набеги творить.

サーム フ・マナスティーリ バショール オン
Сам в монастырь пошёл он

ボーグゥ イ リューデャム スルゥジーチ
Богу и людям служить.

5.
すべての仲間を彼は捨てた
襲撃をおこなうことを辞めた
彼自身は修道院へ行った
神様と人々に仕えるために
монастырь【単数対格】修道院。
служить【動詞・原形】〜に仕える、奉仕する。

6.
ゴースパドゥ ボーグゥ パモーリムスャ
"Господу Богу помолимся!

ドリェーヴニュユ ブィール ヴァズヴェスティーム
Древнюю быль возвестим", -

ターク フ・サローフカフ ナーム ラスカズィヴァール
Так в Соловках нам рассказывал

サーム クゥヂィヤール ピチリーム
Сам Кудеяр-Питирим.

6.
『主なる神さまに祈りを捧げよう!
 ずっと昔にした事をお伝えしよう』
このようにソロフキーで我々に物語った、
クデヤール・ピチリーム自身が。


このページのてっぺんへ  バリアントバージョン


 ガイド   この歌の歌詞は、『行商人』などの作品でも知られる、19世紀ロシアの詩人ニコラーイ・アレクセーイェヴィチ・ネクラーソフ(Николай Алексеевич Некрасов、1821〜1878)によって書かれた詩の一部が歌曲になったものです。
 元になった詩は、ネクラーソフが1876年に出した詩集『Кому на Руси Жить Хорошо(誰にロシアは住みよいか)』の中の、『Пир на Весь Мир(大宴会)』の章に納められています。
 曲のほうは民間で付けられたものです。

 ロシアの伝説によると、クデヤールはイヴァン雷帝(Иван Грозный、1530〜1584、本名はイヴァン四世ヴァシーリエヴィチ〔Иван IV Васильевич〕)の時代のヴォルガ川近辺に実在した義賊で、イヴァン雷帝の実の弟ということになっています。雷帝が、弟が成長したときに自分の王座を奪うのではないかと危ぶんで、弟を殺すように命じたのですが、それを不憫に思った家来に連れられてトルコのスルタンの元へ逃れ、そこでクデヤール(チュルク語系言語で「神の友」の意味)と名づけられたそうです。
 さらに、伝説によれば、後にロシアへ戻り義賊になった彼は、隠れ住んでいた森の中に、商人や貴族から奪い取った宝を納めておくための、鉄の扉の付いた宝物庫を構えていたとされています。現在のロシア・サラトフ州ローフ(Лох)村の近くに、クデヤールたちが住んだり宝を蓄えておいたりしたという話の残る洞窟が現存しています。
 ただし、学術的研究によると、クデヤールという名の盗賊が存在していたのはほぼ確かですが、この詩に歌われているように盗賊から修道士に転身したクデヤールなる人物がいたかどうかは、かなり疑わしいということです。
・参照サイト:
 http://www.solovki.ca/general_03/03_03legend.htm
 http://www.sgu.ru/ogis/club/kudeyar/loh.html

 ロシアの歴史家で文筆家でもあったニコラーイ・イヴァーノヴィチ・コストマーロフ(Николай Иванович Костомаров、1817〜1885)が、1875年に、クデヤールの伝説を扱った作品『Кудеяр(クデヤール)』を執筆しています。こちらでは、クデヤールはイワン雷帝の兄であり、ドン側沿いのコサックの元で成長したことになっています。
  (参照サイト: http://en.wikipedia.org/wiki/Kudeyar )

 この歌でクデヤールがやって来たとされているソロヴェツキー諸島(Соловецкий острова、一般にはソロフキー〔Соловки〕と言いならわされています)は、ロシア北東の白海にある諸島で、行政上はアルハンゲリスク州に属しています。ソロヴェツキー修道院の建てられた15世紀ごろから聖地として発達を始め、19世紀ごろにはロシアの三大聖地のひとつとして人々の信仰を集めましたが、ソビエト連邦の設立後、革命に反対する者たちの収容所となります(海上の孤島という地理的条件と、修道院の建物の堅牢さが、収容所に選ばれた理由であるようです)。1992年に世界遺産に登録されました。

ひとりごと
 伝説では、クデヤールはイワン雷帝の兄弟ということになっていますが、いくらなんでもそれは眉唾物ですよね。だいたい、どこの誰だかも分からない小児が、よその土地で拾われて育てられて、長じて伝説に残るような盗賊になったなんて、どうにも作り話めきすぎています。
 まあ、伝説にすぎないと考えれば、それなりに面白い物語ではあるのですが。
 ところで、クデヤールが首領の座を去った後、残りの十一人の盗賊たちは、どうなったのでしょうね。ちょっとだけ気になります。




バリアント

(1)「メイン歌詞」として挙げた歌詞の2番の歌詞が異なっているバリアントがあります。単語が入れ違っているだけのわずかなものですが、ここに収載しました。異なっているところをピンクの背景で示しています。

(2)(3)「メイン歌詞」として挙げた歌詞の6番の歌詞のかわりに、以下の(2)または(3)の歌詞が入るものがあります。

◆原歌詞 ◆和訳


(1)

ジーリ ドヴェナーッツァチ ラズボーィニカフ
Жили двенадцать разбойников,

ジール クゥヂィヤール アタマーン
Жил Кудияр атаман.

ムノーガ ラズボーィニキ プローリリ
Много разбойники пролили

クローヴィ チェースヌィフ フリスティアーン
Крови честных христиан.


(1)
十二人の盗賊が暮らしていた
首領のクデヤールが暮らしていた
盗賊たちはしじゅう流した
誠実なキリスト教徒の血を


(2)

ゴースパドゥ ボーグゥ パモーリムスャ
Господу Богу помолимся,

ブーヂム ィエムー ムィ スルゥジーチ
Будем ему мы служить.

ザ クゥヂィヤーラ ラズボーィニカ
За Кудеяра-разбойника

ブーヂム ムィ ボーガ マリーチ
Будем мы Бога молить.


(2)
主なる神さまに祈りを捧げよう
我々は神さまにお仕えしよう
盗賊クデヤールのために
我々は神さまにお祈りしよう

ему【代名詞・与格】「彼に」の意味ですが、ここでは「神さま」を指しています。


(3)

ゴースパドゥ ボーグゥ オン モーリッツャ
Господу Богу он молится

ブーヂェッ ィエムー オン スルゥジーチ
Будет ему он служить.

ザ クゥヂィヤーラ ムィ ブーヂム フシェー
За Кудияра мы будем все

ガスポーダ ブラガダリーチ
Господа благодарить.


(3)
彼は主なる神さまに祈りを捧げる
彼は神さまにお仕えするだろう
クデヤールのために、我々はみんなで
神に感謝しよう




◎各種参考URL
【歌詞と解説】
○http://a-pesni.golosa.info/popular20/bylo12.htm
【歌詞】
○http://orthodox.etel.ru/2002/34/k_10mur.shtml (メイン歌詞)
○http://masterrussian.net/mforum/viewtopic.php?t=11740
○http://kolyada.ur.ru/chernaya-kassa/2005/01/12-razboynikov/
○http://www.guitarland.ru/modules.php?name=songs&show=song&id=1718
○http://ilibrary.ru/text/13/p.19/index.html
○http://www.school-city.by/index.php?option=com_content&task=view&id=1673&Itemid=137
【ガイド資料・その他】
○http://www.solovki.ru/
○http://www.solovki.ca/general_03/03_03legend.htm
○http://www.sgu.ru/ogis/club/kudeyar/index.html
○http://www.sgu.ru/ogis/club/kudeyar/roman.html
○http://www.sgu.ru/ogis/club/kudeyar/loh.html
○http://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9A%D0%BE%D1%81%D1%82%D0%BE%D0%BC%D0%B0%D1%80%D0%BE%D0%B2,_%D0%9D%D0%B8%D0%BA%D0%BE%D0%BB%D0%B0%D0%B9_%D0%98%D0%B2%D0%B0%D0%BD%D0%BE%D0%B2%D0%B8%D1%87
○http://nikolay-nekrasov.narod.ru/stihi/
komu_na_rusi_jit_horosho_kratkoe_soderjanie.htm
○http://www.hrono.ru/biograf/kostomarov.html

MIDI作成ソフト:サクラ 第二版(Ver.2.36)
ページ最終更新:2008/02/16

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