発音の手引き・言語別
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ドイツ語を発音するときに心に留めておくと発音が上手になる、そんなキーポイントをまとめてあります。
文字や発音記号の一つ一つの発音は、発音の手引きの「母音」ないし「子音」にこれでもかと言うほど記述いたしましたので、そちらをご覧くださるようご案内いたします。
◆ドイツ語
○ドイツ語・発音の総括的説明
- ドイツ語を発音するにあたって、まずは、文字の組み合わせによる、綴りと異なった発音の文字を覚えてしまいましょう。(母音のルール・子音のルールを参照)
読み方さえ覚えてしまえば、例外的なものはほとんど無いので、あとが楽です。
- ドイツ語には、語と語の発音がくっついて新たな音節を形成する「アンシェヌマン」はほとんどありません。
したがって、個々の単語は、文字に書いてあるように独立して発音すればよいのです。初学者にも優しい言語ですね。
- ドイツ語のアクセントは強弱アクセントです。アクセントのある母音は、強くはっきりと発音されます。
- ドイツ語の母音には、「短母音」と「長母音」と「二重母音」があります。このうち、「長母音」は、「短母音」を1.5倍くらいに引き伸ばして発音したものです。
「長母音」や「二重母音」にはアクセントが来ることが多く見られます。逆に、アクセントを持つ母音は、たいてい長母音か二重母音であるとも言えます。
- 単語が変化することで、母音が違う音になることがあります。これをウムラオト(Umlaut『母音変化』)と呼びます。詳しくは下の「母音のルール」を参照してください。
- ドイツ語には、口をすぼめて尖らせる/w/の発音はありません。かわりに、/v/の発音を用います。
- ドイツ語を特徴付ける音は、各種のウムラオト発音、「ハ」「ヒ」(ch)や「ツ」(tz、z)といった気音、/∫/を冒頭にもつ連子音の頻出、/z/、/d/、/g/、/v/の頻出などでしょう。
○ドイツ語・母音のルール
- ドイツ語の母音は、すべて短母音と長母音のペアとなっています。この2種の発音は、短く発音するか、長く発音するかの差異だけで、あとは調音の仕方などに違いはありません。
母音字は下の枠の中にあるものです。「ü」と「y」の発音は同じなので、ドイツ語の母音は合わせて8種類(短母音と長母音を別々に勘定すれば16種類)になります。
一般の母音 |
a e i o u |
ウムラオト母音 |
ä ö ü y |
- アクセントのある母音は強くはっきりと発音されます。いっぽう、アクセントのない母音は弱く発音され、あいまい母音(「発音の手引き・母音」のU-3を参照)になることもあります。
- 母音の直後に「h」が付くと、その母音は長母音として発音されます。また、「aa」「ee」「oo」の綴りも、長母音として発音されます。
- hohl「ホール」(『がらんどうの』)、Währung「ヴェールン゜」(『通貨』)
- Saat「ザーッ」(『種まき』)、Seele「ゼーレ」(『魂』)、Boot「ボーッ」(『ボート』)
- 単語が一定の変化を受けると、その単語にもともと含まれていた母音が、舌の位置の変化を伴った異なる音になることがあります。これをウムラオト(母音変化)と呼びます。また、変化した母音そのもののことも「ウムラオト」と呼びます。
変化の仕方は決まっていて、「a(アー)」は「ä(エー)」、「o(オー)」は「ö(エー)」、「u(ウー)」は「ü(ィユー)」、「au(アォ)」は「äu(オィ)」とそれぞれ相互転移する関係にあります。
ウムラオトが発生または消滅する主な条件には、以下のようなものがあります。
- [1]名詞が複数形になる : Bäuche < Bauch (『腹』の複数形と単数形)
- [2]名詞に形容詞を作る語尾がついて形容詞になる : nämlich < Name (『すなわち』と『名前』)
- [3]動詞・助動詞が人称変化する : schlägt < schlagen (『打つ』の三人称単数現在形と原形)
- [4]形容詞・副詞が比較変化する : größer < groß (『大きい』の比較級と原級)
- [5]動詞の語幹に名詞を作る語尾がついて名詞になる : Tänzer < tanzen (『ダンサー』と『踊る』)
- [6]動詞の語尾が取れて名詞になる : Sturz < stürzen (『落下』と『転落する』)
- ドイツ語の二重母音は、「アィ /ai/」「アォ /au/」「オィ /oi/」の3種類があります。
- 語末に来る「er」に含まれる「r」や、前綴り「er」「ver」「zer」の中の「r」、長母音のあとの「r」は、いずれも弱い母音「ァ」として発音されます。
- 「エス・ツェット ß」の直前に来る文字の発音は、必ず長母音か二重母音という規則があります。
ただし、これは1998年に施行されたドイツ語の新正書法によって定められたものなので、それ以前に書かれたものや、旧正書法を固持する人が書いたものなどでは、必ずしもこの規則が適用されているとはいえません。
○ドイツ語・子音のルール
- ドイツ語では、二重子音・三重子音が見られます。
- 語尾に来た有声子音や、他の子音の直前に来た有声子音は、対応する無声子音になります。
「s」は、語頭にあって後ろに母音が続くときや、母音に挟まれているときは、有声の/z/になりますが、語頭で「sp」「st」の形をとっているときは/∫/、それ以外の場合は無声の/s/の発音になります。
※方言によっては、後ろに母音が続いても無声の/s/で発音されます。
下の子音に対応する有声子音 |
b d g s w |
上の子音に対応する無声子音 |
p t k s f |
- 無声子音と有声子音がこの順で続いても、あとの有声子音が前の無声子音を有声化することはありません。
- 子音「ch」は、前後の綴りによって、次の5通りの発音を示します。
- 「ヒ」「ヘ」(発音の手引き・子音のH-3):i、e、eu、öなどのあとに来たときの発音です。語頭に立った時の一部の単語にも見られます。
dicht「ディヒト」(『密な』) 、Rechnung「レヒヌン゜」(『計算』)、Chemie「ヘミー」(『化学』)
- 「ハ」「フ」「ヘ」「ホ」(発音の手引き・子音のH-5):a、o、u、auのあとに来たときの発音です。
Nacht「ナハト」(『夜』)、Buch「ブゥフ」(『本』)、brauchen「ブラォヘン」(『必要とする』)
- 「ク」(発音の手引き・子音のK-1):sのすぐ前、すなわち「chs」という綴りのときの発音です。直前の母音は無関係となります。
Fuchs「フクス」(『キツネ』)、Dachs「ダクス」(『アナグマ』)
- 「シ」(発音の手引き・子音のC-1):「sch」と綴られた時に限る発音です。直前に「t」が来る時を除き、この「sch」が出現したときは「シ」と発音されます。
schreiben「シュライベン」(『書く』)、Tasche「タシェ」(『ポケット』)
- 「チ」(発音の手引き・子音のC-4):「tsch」と綴られた時に限る発音です。
Tschüs「チュース」(『それじゃあね、バイバイ』)、plätschern「プレッチェァン」(『ぴちゃぴちゃと水音を立てる』)
- 形容詞・名詞の語末の綴り「ig」は、前後の綴りによって、次の3通りの発音を示します。
- 「イヒ」(発音の手引き・子音のH-3):語尾または子音の直前に来たときの発音です。
König「ケーニヒ」(『王』) 、Ewigkeit「エーヴィヒカィッ」(『永遠』)
- 「イグ」(発音の手引き・子音のK-2):母音の直前に来たときの発音です。
Königin「ケーニギン」(『女王』)
- 「イク」(発音の手引き・子音のK-1):この綴りの後ろに、「ヒ」(子音H-3)の要素を含む綴りが来る場合の発音です。
königlich「ケーニクリヒ」(『王の』)
- 「sp」「st」の発音は、語頭では/∫p/、/∫t/となり、それ以外だと/sp/、/st/の発音になります。「spr」「str」の綴りでも同様です。
なお、be-、er-、ver-など「前綴り」のついている単語では、前綴りを除いた部分の頭に「sp」「st」が付いているかどうかで、上の法則が適用されます。
- spitz「シュピツ」(『先のとがった』) ・・・・・・ Wespe「ヴェスペ」(『スズメバチ』)
- Strahl「シュトラール」(『光線』) ・・・・・・ Estrich「エストリヒ」(『たたきの床』)
- 「v」の綴りは、基本的に、無声の/f/の音を表します。
ただし、外来語では、有声の/v/となることもしょっちゅうあります。なお、外来語であっても、語尾に「v」の字が来たときは、無声音になります。
- Vogel「フォーゲル」(『鳥』)、Großvater「グロースファーテァ」(『祖父』。いずれも「v」は無声)
- 外来語で「v」が有声化する例:servieren「ゼァヴィーァレン」(『給仕する』。フランス語より)、Villa「ヴィラ」(『大邸宅』。ラテン語より)
- 外来語であっても語尾の「v」が無声化する例:nativ「ナティーフ」(『天然の』。フランス語より)
○ドイツ語のアルファベート一覧(左の列から縦に見ていってください。)
A a
|
アー
|
K k
|
カー
|
U u
|
ウー
|
B b
|
ベー
|
L l
|
エル
|
V v
|
ファオ(ファウ)
|
C c
|
ツェー
|
M m
|
エム
|
W w
|
ヴェー
|
D d
|
デー
|
N n
|
エン
|
X x
|
イクス
|
E e
|
エー
|
O o
|
オー
|
Y y
|
ユプスィロン
|
F f
|
エフ
|
P p
|
ペー
|
Z z
|
ツェット
|
G g
|
ゲー
|
Q q
|
クー
|
Ä ä
|
エー (アー・ウムラオト)
|
H h
|
ハー
|
R r
|
エル(エール)
|
Ö ö
|
エー (オー・ウムラオト)
|
I i
|
イー
|
S s
|
エス
|
Ü ü
|
ユー (ウー・ウムラオト)
|
J j
|
ヨット
|
T t
|
テー
|
ß
|
エス・ツェット
|
- ドイツ語の字母は30組です。
このうち、最後の「エス・ツェット」は、名前のとおり「s」と「z」が合わさってできた文字ですが、大文字がありません。ロゴや看板などで、大文字で表記する必要がある場合には、「SS」と書き表します。
- Cの読みは、発音記号で/ts/と表せる音(「ツ」の子音)を表記する文字であることを示唆していますが、実際にこの発音の表記に使われることは殆どありません。
ほとんどの場合、「ch」の綴りで使用されます。「h」を伴わないときは、英語やフランス語などからの外来語の表記に使われ、/k/または/s/の発音を表します。
- Qは必ず後ろに「u」を伴います。この2文字で、/kv/の発音を表します。
- ウムラウト付きの文字(ä、ö、ü)は、上に点が2つ並んで付いているのが特徴です。これらの文字の発音の覚え方は、「点々を除いた文字の発音をするときよりも、舌を前方に移動させればよい」とみなすと覚えやすいでしょう。
日本語でこれらの文字の名前を呼ぶときには、「アー・ウムラオト」「オー・ウムラオト」「ウー・ウムラオト」とするのが一般的です。中国語の併音(ピンイン)には、「ü」の文字がありますが、日本ではこちらも一般に「ウー・ウムラオト」と呼びならわされています。
なお、「ウムラオト」を「ウムラウト」と発音する御仁もいらっしゃいます(ってかこっちの方が一般的)。
○ドイツ語とその一般的なカタカナ表記の関係
- ウムラオト母音の「ä」「ö」「ü」は、一般に、それぞれ「エ」「エ」「ユ」またはこれらの長音で表されます。
[例]Gelände「ゲレンデ」(『土地、地勢』。日本語では一般に「ゲレンデ」と表記)
Köln「ケルン」(ドイツ西部の都市。日本語では一般に「ケルン」と表記)
München「ムュンヒェン」(ドイツ南部の都市。日本語では一般に「ミュンヘン」「ミュンヒェン」と表記)
- 「au」は「アウ」と表記されますが、ドイツ語の発音を厳密にするために「アオ」と表記されることもあります。また「auer」には例外的なカナ表記もあります。
[例]aufheben「アォフヘーベン」(『止揚する』。日本語では一般に「アウフヘーベン」と表記。哲学用語)
Umlaut「ウムラォッ」(『変母音』。日本語では「ウムラウト」「ウムラオト」と表記)
Sauerkraut「ザォアァクラォッ」(『発酵キャベツ』。日本語では一般に「ザウアークラウト」「ザワークラウト」と表記)
- 語尾または音節末が「〔短母音〕+ 無声の〔破裂音または摩擦音〕」であるときは、母音で表される字と子音で表される字の間に「小さな『ッ』」を表記します。
[例]Hückel「ヒュクル」(ドイツの有機化学者。日本語では一般に「ヒュッケル」と表記)
Satz「ザツ」(『文、楽章』。日本語では一般に「ザッツ」と表記。音楽用語として使用)
Kocher「コヘァ」(『湯沸し』。日本語では一般に「コッヘル」と表記)
- ドイツ語では、音節末または語末に来た子音は無声となるので、日本語でも清音または半濁音で表記されます。一般には「ウ」の段のカナを用いますが、/t/が来たときは「ト」、/n/が来たときは「ン」を用います。
ただし、「ng」で終わる場合は、「ング」と表記します。
[例]Lied「リーッ」(『歌』。日本語では一般に「リート」と表記。「ドイツリート」など)
Hamburg「ハンベァク」(ドイツ北部の都市。日本語では一般に「ハンブルク」と表記)
Jung「ィユン゜」(ドイツの心理学者。日本語では一般に「ユング」と表記)
- ドイツ語には「l」と「r」の発音のしわけがありますが、日本語にはありません。したがって、日本語ではいずれも「ラ」行で表します。
子音の直前または語尾に来た「r」は、伝統的に「ル」と表記しますが、語尾に来た場合は、固有名詞を中心に「ア」「エァ」を用いる例もあります。
[例]Berlin「ベァリン」(ドイツの首都。日本語では一般に「ベルリン」と表記)
Energie「エネァギー」(『エネルギー』。日本語では一般に「エネルギー」と表記)
Bier「ビーァ」(『ビール、麦酒』。日本語では一般に「ビール」と表記)
Kästner「ケスッネァ」(ドイツの小説家。日本語では一般に「ケストナー」と表記)
- 「w」は、ドイツ語では一般に/v/の発音ですが、日本語では伝統的に、「ワ」行か「バ」行のカナとして表記します。
但し、最近では、原音に倣い「ヴァ」行の子音とすることもあります。
[例]Wien「ヴィーン」(オーストリアの首都。日本語では一般に「ウィーン」と表記)
Schwartzwald「シュヴァァツヴァルッ」(ドイツ南西部の山地。日本では直訳して「黒森」ともいう。日本語では一般に「シュバルツバルト」と表記)
- 語頭または前綴りを除いた部分の先頭に立つ「sp」「st」「schl」「schm」「schn」「schr」「schw」に含まれている「s」「sch」は、「シュ」と表記します。また、「sch + 母音」に含まれている「sch」も「シャ」行のカナで表記します。
ただし、「sp」「st」は、慣用として「スプ」「スト」で表記されることもあります。
[例]Einstein「アィンシュタィン」(ドイツの物理学者。日本語では一般に「アインシュタイン」と表記)
Schrödinger「シュレーディンゲァ」(ドイツの物理学者。日本語では一般的に「シュレーディンガー」と表記)
Schale「シャーレ」(『大皿、シャーレ』。日本語では一般に「シャーレ」と表記)
Stock「シュトク」(『杖、棒』。日本語では一般的に「ストック」と表記。原則とは異なる事例)
- 「ch」は、前後の発音によって、「ハ」「ヒ」「フ」「ヘ」「ホ」のいずれかで表記されます。ただし、「chs」は「クス」と表記されます。
また、語末や音節末で「〔短母音〕+ ch 」の綴りは、「アッハ」「イッヒ」のように、「小さなッ」を伴って表記されることもあります。
[例]Märchen「メーァヒェン」(『おとぎ話』。日本では一般に「メルヘン」「メルヒェン」と表記)
Bach「バーハ」(ドイツの作曲家。日本語では一般に「バッハ」と表記)
Sachsen「ザクセン」(ドイツ東部の地方名。日本語では一般に「ザクセン」と表記)
Mitscherlich「ミッシェァリヒ」(ドイツの有機化学者。日本語では一般に「ミッシェルリッヒ」と表記)
- 語頭や音節のはじめの「s」は「ザ」行の子音で表記されます。「si」は「ズィ」よりも「ジ」と表記されるのが一般です。
[例]Siegfried「ズィークフリーッ」(ドイツ伝説の主人公。日本語では一般に「ジークフリート」と表記)
- 「tz」「z」は「ツァ」行のカナで表記されますが、「tzi」「zi」は「チ」、「zü」は「チュ」と表記されることもあります。
[例]Hertz「ヘァツ」(ドイツの物理学者。日本では一般に「ヘルツ」と表記)
Mozart「モーツァァッ」(オーストリアの作曲家。日本語では一般に「モーツァルト」と表記)
Leipzig「ラィプツィヒ」(ドイツ東部の都市。日本語では「ライプツィヒ」「ライプチヒ」と表記)
Zürich「ツューリヒ」(スイス北部の都市。日本語では「チューリヒ」「チューリッヒ」と表記)
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