J'AI DU BON TABAC | |
作詞:G.シャルル・ドゥ・ラテニャン / 作曲:不詳 | |
邦題 『私はいいものを持っているのよ』 『古いフランスの歌』など |
◆原歌詞:1〜10番 歌詞についての解説はガイドの項をご覧ください。 |
◆和訳と語句 |
1. ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. ジョン エ デュ ファン エ デュ ラペ J'en ai du fin et du râpé, ス ネ パ プゥル トン フィシュ ネ! Ce n'est pas pour ton fichu nez ! ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
1. 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね 上質で細かくおろしてあるんだ 君のろくでもない鼻には向いてないね 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
tabatière 嗅ぎタバコ入れ。
近世ヨーロッパで大流行した小物。中に粉状の嗅ぎタバコを入れて持ち歩きます。 râpé【動詞・過去分詞】 <râper (おろし金で)すりおろす、細かくする。 fichu【形容詞】駄目になった、不快な。 |
2. ス ルフラン コヌュ ク ションテ モン ペェレ Ce refrain connu que chantait mon père, ア ス セゥル クゥプレ イ・レテ ボーァネ A ce seul couplet il était borné. ムヮ、ジュ ム スヮ デテルミネ Moi, je me suis déterminé ア ル グロスィル コム モン ネ A le grossir comme mon nez. ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
2. 父が歌ったこの馴染みのせりふ この言葉ばかりを彼はいつも口にしていた 私は心に決めた、そのせりふを 自分の鼻のように膨らませてやるんだとね 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
refrain いつも言う言葉、常套句。
couplet 決まりきった話、十八番のねた。 歌の「第○節・第○番」の意味もあります。 borné【形容詞】偏狭な、視野の狭い。 |
3. アン ノブル エリティエ ドゥ ジョンティロミェレ Un noble héritier de gentilhommière ルケィユ、トゥ セゥル、アン フィエフ ブラソンネ Recueille, tout seul, un fief blasonné. イル ディ・タ ソン フレェル プュイネ Il dit à son frère puîné : スヮ アベ、ジュ スュィ トン エネ Sois abbé, je suis ton aîné. ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
3. 小さな城館を相続する貴族階級のお方が ただ独りで、先祖代々の領地を受け継いだ 彼は自分の弟に言った―― 神父になりたまえ、私は君の兄だぞ 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
héritier 相続人。
gentilhommière (貴族の)別荘、小城館。 fief 領地、(封建制度下の)封土。 blasonné【形容詞】代々受け継がれた。 puîné【形容詞】すぐ下に生まれた。 aîné【形容詞】年上の。 |
4. アン ヴェィ・リュスュリエル エクスペル オ・ナフェル Un vieil usurier expert en affaire, オケル パル ブズヮン ロン エ・タムネ Auquel par besoin l'on est amené, ア ロンプランテュル アンフォルテュネ A l'emprunteur infortuné ディ、アプレ ラヴヮ ルュイネ Dit, après l'avoir ruiné : ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
4. 取引にたけた高齢の高利貸 人々は必要に応じて彼のもとに連れてこられる 不運な借り手に 破産した後になってからこう言うのだ―― 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
usurier 高利貸屋。
amené【動詞・過去分詞】 <amener 〜へ連れてくる(いく)。 ruiné【動詞・過去分詞】 <ruiner 破産させる。 |
5. ジュジェ、アヴォカ、オントルヴロン レュル セレ Juges, avocats, entr'ouvrant leur serre, オ ポヴレ プレドュル、パル ユー ロンソネ Au pauvre plaideur, par eux rançonné, アプレ アヴヮ パトゥリネ Après avoir pateliné, ディソン、ル プロセ テーァミネ Disent, le procès terminé : ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
5. 判事たちに弁護士たち、鷲爪を開きかけて 気の毒な訴訟人から金を奪おうとする 言葉でたぶらかしておいてから 訴訟は終了したと言うのだ―― 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
entr'ouvrant【動詞・現在分詞】
<entrouvrir 〜を半開きにする。 serre (特に猛禽類の)爪。転じて「握りつぶすこと」という意味でも使われます。 pateliné【動詞・過去分詞】 <pateliner 口先でたぶらかす。 |
6. ダン グロ フィノンシエ ラ コケトゥ フレーレ D'un gros financier la coquette flairé ル ボォ ビジュ ドル ドゥ ディアモン オルネ Le beau bijou d'or de diamants orné. ス グリグゥ、ダン エール ロンフロニェ Ce grigou, d'un air renfrogné, ルュィ ディ、マルグレ ソン ジョリ ネ Lui dit, malgré son joli nez : ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
6. 浮気女が嗅ぎつけたのは、太った金融資本家の ダイヤモンドで飾った美しい黄金の小物 そのけちん坊はご機嫌斜め 素敵な鼻にもかかわらず女に言った―― 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
flairé【動詞・三人称単数過去形】
<flairer (においを)かぎつける。 grigou けちな人、けちん坊。 malgré【前置詞】〜にもかかわらず。 |
7. ヌペル、ス クルヮヨン アン フゥドル ドゥ ゲレ Neuperg, se croyant un foudre de guerre, エ、パル フレデリク アセ マル メネ Est, par Frédéric, assez mal mené. ル ヴァンケュル キ ラ タロネ Le vainqueur qui l'a talonné ディ・タ ス オングロヮ エトネ Dit à ce Hongrois étonné : ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
7. ヌーペールは、自分のことを ご立派な将軍だと信じていたが フレデリックのおかげで、 かなりひどいことになってしまった 彼を追い落としてきた勝利者は 驚くハンガリー人に言った―― 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
Neuperg【人名】詳細確認中。
foudre de guerre (皮肉的に)猛将軍。 Frédéric【人名】詳細確認中。 vainqueur 勝利者、覇者。 talonné【動詞・過去分詞】 <talonner 尾行する、すぐ後を追う。 |
8. テル キ ヴュ ニェァ レスプリ ドゥ ヴォルテール Tel qui veut nier l'esprit de Voltaire, エ、プゥル ル ソンティル、トロ・ポンシフルネ Est, pour le sentir, trop enchifrené. セ・テスプリ エ トロ ラフィネ Cet esprit est trop raffiné エ ルュィ パセ ドゥヴォン ル ネ Et lui passe devant le nez. ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
8. ヴォルテールの精神を否定したいものだから においを嗅ごうにもすっかり鼻が詰まっている あいつの精神は非常に洗練されていて 鼻のまん前を通り過ぎていく 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
Voltaire【人名】ヴォルテール。
18世紀フランスの啓蒙思想家。特にキリスト教の権限に対して懐疑的であったことで知られます。 enchifrené【形容詞】鼻づまりを起こした。 raffiné【形容詞】洗練された。 |
9. パル ス ボン ムセゥ ドゥ クレルモン・トネレ Par ce bon Monsieur de Clermont-Tonnerre, キ フュ メコントン デトル ションソネ Qui fut mécontent d'être chansonné ; メナセ デトル バトネ Menacé d'être bâtonné, オン ルュィ ディ、ル クゥ デトゥルネ On lui dit, le coup détourné : ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
9. この歌に不満を抱いていた クレルモン・トネルレの良き紳士のために―― 棒で打たれるぞと脅かされて 相手は身を翻して、彼に言った 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
Clermont-Tonnerre【家系】クレルモン・トネルレ。
フランス南東部のドーフィネ村を発祥とする貴族の家系です。 mécontent d'...【形容詞句】 =mécontent de ... 〜に不満な。 détourné【動詞・過去分詞】 <détourner 向きを変える、(人を)引き離す。 |
10. ヴヮラ ディ クゥプレ、スラ ネ フェ ゲレ Voilà dix couplets, cela ne fait guère プゥ・ラン テル スュジェ ビャン アセゾネ Pour un tel sujet bien assaisonné. メ ジェ ペュ カン プリゼュル マル ネ Mais j'ai peur qu'un priseur mal né ヌ ションテ オン メ リャン・ト ネ Ne chante en me riant au nez : ジェ デュ ボン タバク ドン マ タバティエル J'ai du bon tabac dans ma tabatière, ジェ デュ ボン タバク、チュ ノン オラ パ J'ai du bon tabac, tu n'en auras pas. |
10. さて第10番、このような題材にしては じゅうぶんに面白くできたとはまだ言えない だが私は、嗅ぎタバコ好きの下賎の民が 私の鼻について楽しく歌いやしないかと怖いのだ 私は嗅ぎ煙草入れにいいタバコを入れているよ いいタバコだよ、君にはやらないがね
couplets
上では「決まりきった話」の意味でしたが、ここでは「歌の第○番」の意味。 guère 【副詞】 〔前にneを伴って〕 あまり〜ではない。 priseur 嗅ぎタバコを嗅ぐ人。 |
ガイド
この歌の詞は、フランス北部のランス市で修道院長を務めていたガブリエル・シャルル・ドゥ・ラテニャン(Gabriel Charles de l'Attaignant、1697〜1779)によって書かれたものです。書かれたのは1760年前後といわれています。
シャルル修道院長は、宴会の座などで興に乗ると、しばしば、不謹慎な言葉を詠み込んだ風刺詩を即興で作り、一座に披露していたといわれています。この『J'ai du Bon Tabac』も、そういった即興詩のひとつですが、シャルル氏の作った歌で現代でも一般に知られているのはこの歌だけのようです。 シャルル氏が作った風刺詩のうちに、クレルモン・トネルレ(9番の語解説を参照)の伯爵を批判したものがあり、伯爵はシャルル氏を棒で打って成敗しようと画策したのですが、間違えて、シャルル氏に似た別人を殴ってしまったという事件がありました。シャルル氏は、この事件も、歌の中にしっかり詠み込んでいて、9番の歌詞がそれに当たります。 余談ですが、2番の歌詞にもほのめかされているように、シャルル氏は鼻がそうとう大きかったようです。 嗅ぎタバコは、17〜18世紀のヨーロッパの貴族階級の間で、たしなみとしてきわめて高い人気のあった嗜好品です。もともとは薬として使われていたらしく、頭痛薬として用いたという記録もあります。 嗜好品に転じてからは、嗅ぎタバコの嗅ぎ方や勧めかたなどの作法も生まれ、贅を凝らした嗅ぎタバコ入れもいろいろと作られました。 『J'ai du Bon Tabac』の1番の歌詞は、わらべ歌になり、フランス人なら誰でも知っていると言っても過言ではないほどですが、2番以降はフランス語圏でもあまり知られていません。
ひとりごと |
参考URL: http://ourworld.compuserve.com/homepages/Thierry_Klein/jaidubon.htm http://tabatieres-snuffboxes.chez.tiscali.fr/chanson_gb.htm https://fr.wikipedia.org/wiki/Gabriel-Charles_de_Lattaignant
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